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いわゆる一つの萌え要素の為の場所
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 私が勤めている銀行で強盗事件が起きてから三日が経った。あれからしばらく銀行には休ませてもらう旨を告げ、しぶしぶながらも承諾された。幸い有給休暇が残っているので通常の休みと合わせて二週間近くは休むことができる。事件以後は買い物以外に家を出たりはしなかったが、今は喫茶店にいる。この喫茶店は家から自転車でも2,30分ほどかかる距離にある。なのでバスで来た。今、私の前にはホットコーヒー。そしてその向かいには男が二人座っている。
 「では、これが約束のものです。きっかり百枚、入ってますよ」
 そう言ったのは細身の男。もう一人の男が親方と呼んでいたので、結構地位の高い男なのかもしれない。確かに貫禄のありそうなオーラは感じられる。
 この喫茶店に来たのはこれを受け取るためだ。銀行強盗をするために銀行員を買収することは驚いたが、余計な抵抗をされずにすめば安全に実行できる。お金をすぐ出す準備をし、抵抗せず渡す。それだけで100万である。渡したお金が1000万なので一割だ。もともとあの銀行が嫌いだった私にとって辞めるついでに金が手に入るおいしい話だった。リスクも少なかったので話に乗ったのだが、こうしてきちんとお金も渡された。かなりうまくいき過ぎてる気はするが、今のところ不満はなにもない。
 「ちゃんと全額入ってるんでしょうね。調べさせてもらうわよ」
 中身を調べてみた。なにも不審なものは入ってないようだ。偽物もない。正確な枚数はわからないが、おそらくちょうど100万入っているのだろう。厚みがそれくらいだ。
 確認し終えてから、気になっていたことを聞いてみた。
 「そういえばあの時、後ろの女性にぶつかったわね。かばんが入れ替わったように見えたけど、大丈夫だったの?」
 「大丈夫ですよ、ちゃんと取り返しましたから」
 「取り返したって、やっぱり入れ替わってたってことじゃない。なにやってるのよ、あなたたち。あきれるわ」
 「まあ、それは無事取り返したってことで・・・・・・あ、来ましたね。あれがうちの若頭です」
 入ってきた男を見る。二十歳前後だろうか。男が呼んだ声に気付いてこちらに向かってくる。見たことがある顔だ。
 「はじめまして、私は小鳥遊組若頭の小鳥遊遊鷹と申します。今里さん、どうぞよろしく」
 「あ、どうも。こちらこそよろしく」
 この男も仲間だったのか。周りを身内で囲い込んでいたのだろうか。となるとあの女性も彼らの組の人間だろうか。
 「あなたも組の人間だったわけね。じゃああの女も仲間だったのかしら?あなたたち二人はすぐに銀行から出て行ったものね」
 実行犯以外が持って逃げたほうが確かに安全だろう。同じかばんを持っていたことも、こうするための工作だったということだ。
 「いえ、彼女はただの被害者ですよ。うちの者じゃありません」
 「そう。それじゃ入れ替わっていたことに気付いてそれとなく監視してたのね。第三者の振りをして回収する機会を狙ってたわけね」
 「ええ。まあ、そんなところです」
 それが真相だったのか。私はそう思った。もちろん、自分に関係ないことだし、こうしてお金が手に入ったのだからなにが起こっていようと問題はないが。
 「そうだ、今里さん、音楽に興味はありませんか」
 「最初からいた、太った男が言った。今になって初めて私に話しかけた。その内容としてはかなり拍子抜けするものだった。
 「音楽がどうかしたのかしら」
 「私たちでバンドを組もうという話になりましてね。ギターはそこの親方。ベースは私が。そしてドラムは若頭ができるんですけど、歌う人がいなくてね。音楽性の方向としては黒い感じで行こうと思ってて・・・・・・」
 「あんた話が長いわ。もっと聴くほうのことを考えなさい。私が音楽に全く興味なかったらどうする気?」
 と言ってから一つため息をついた。そして言う。
 「ボイストレーニングはしたことがあるわ。あなたたちが私のバンドのメンバーに相応しいかどうか見てあげるわ」
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 「大桑さん、もうええで」
 かばんを回収し、持っていた二人がいなくなってから小野がおもむろに言った。視界の先には男が真っ赤になって倒れている。今は小野を含めてカラスと倒れている男しかいない。
 その男がむくりと起きだした。
 「そうですか。では。・・・・・・うーん、やっぱり気持ち悪いな」
 「まあ役目やさかいしゃあないわ。これも若の頼みじゃけえ」
 「そうですね。うまくいったみたいですね、死体役」
 「なかなかやったでえ。わいがちょっと早すぎたかもしれへんけど、そっちはうまかったわ」
 「あの女性、本当に怯えてましたからね。やりすぎかもと思ったくらいでしたよ」
 「まあそれくらい脅かしたほうがええやろ。警察に出られると後々面倒やさかい」
 「それもそうですね。それに、恨むなら若を、ですし」
 「でも、わしらはホンマに怖かったんかいなぁ」
 そう言った小野の口調は、どこか寂しそうであった。
 「それは、まあ・・・・・・見たからに、実際にそうですけど、極道もんですからね。それがポン刀持ってるんですから、怖いですよ」
 「うちは極道もん以外は殺さへん。それが掟や。でも、それを知らんやつにはああいう脅しは効果的やっちゅうことやな」
 「確か親っさんが組を作った時に決めたものでしたよね」
 「ああ、わしはその頃からおったんや。一に極道同士でなければ殺生はせず。二にこの世界から足を洗う者を止めてはならず。抜けるんが自由なのは任侠道が過酷だから、やそうや。実際うちは入るに難しいからな。選ばれなければ入られへん」
 「親っさんが率先して極道から足を洗うよう勧めてるふしがありますね」
 「特に女子供が出来たりしたらな。姐さんはもともとこっちの方だったが、若には大学に行かせたりしてるな」
 「若はうち抜けるんですかねえ」
 「相手と上手くいったら組を辞めるやろな。向こうはカタギやさかい」
 「上手くいくといいですね」
 「せやなあ。ちょっと寂しい気もするがな。うちらは若直属の舎弟にやし、ずっと見てきたからな」
 「さて、ぼくたちもそろそろ帰りましょうか」
 「そんな格好のままおっても可哀想やからな。おい、おまえら帰るでえ」
 そして、その場には誰もいなくなった。そこには赤い水溜りだけが風で波をつくっていた。
 おれはすぐにその場を離れ、家に帰ろうと歩きはじめた。隣には朱宮さんがいる。彼女がおれに話しかけた。
 「あの・・・・・・すいませんでした。あなたまで巻き込んでしまって」
 「いや、いいんですよ。こうして二人とも無事なんですから。気にすることはないですよ」
 「でも・・・なぜ助けてくれたんですか?私をおいて一人で逃げれば小鳥遊さんまで追われなくて済んだのに。結局助けてもらってこんなこと言うのもなんですけど」
 「いえ、あなたを一人おいて逃げられなかった。ただそれだけですよ」
 「あ・・・・・・ありがとうございました。そう言ってもらえるて嬉しいです」
 十字路に差し掛かった。ここを家に行くには右へ曲がらなくてはいけない。
 「朱宮さんはどちらへ?私はここを右ですが」
 「えーっと・・・・・・この辺りはよくわからないんですけど、たぶん私も右へ行けばいいと思います」
 二人とも右に曲がる。普通の住宅地が続く。よくみると右側は十軒ほど同じような造りをしている。同じ会社が建売販売したものだろうか。
 「小鳥遊さんってなにか格闘技をやってるんですか?」
 「はい。いくつかやったことがあります。趣味の範囲で、ですけどね」
 「そうなんですか?あの、趣味の範囲で日本刀をとめたりできるんですか?」
 「いえ、あれはかなり偶然ですよ。そう簡単にできるもんじゃありません。運がよかっただけです」
 そう話しているうちに三叉路に出た。まだまっすぐ行けばいい。この道は少しカーブをしているのでまっすぐというのはおかしい表現だが。
 さっきの会話以降彼女はなにも話さない。おれも自分から話すようなことがない。なにかこのまま沈黙を続けるのもアレなのでなにか会話をしたいが、なにを話していいのかがわからない。
 そんなことを思いながら歩いていると、広い通りに出た。
 「やっと道のわかるとこに出ました。私はここをあちらですけど、小鳥遊さんはどちらですか?」
 彼女はここを左らしい。こちらはまだ直進だ。
 「私はまだまっすぐです。じゃあ、ここでお別れですね」
 「あ、はい。そうですね」
 「では、また、なにかあったらお会いしましょう。ま今回みたいな命懸けなことはいやですが」
 「そうですね。今度会うならなにか、できれば楽しいことで会えるといいですね」
 「それはそうですね。あ、そうだ、朱宮さん」
 「はい?」
 メモ帳を破り手早く数字を書いた。折角のチャンスだ。
 「これ、私の番号です。なにかあったら連絡して下さい」
 「あ、わかりました。じゃあ、私も」
 今度は彼女が連絡先を教えてくれた。思い切って言ってみてよかった。
 「では、これで失礼しますね。・・・・・・あの、今日は本当にありがとうございました。無事でいられたのもあなたのお陰です」
 「いえいえ、無事でなによりです。それじゃあ」
 そう言って別れた。しばらく歩み去ってゆく彼女の後姿を眺めてから、再び帰路についた。
 小野が一歩近づいてきた。ここがおそらくあいつの間合いだろう。一歩踏み込み刀を振り下ろせば簡単に人を殺せる距離だ。
 「とりあえず、前にいるあんちゃん死んでもらおうかい」
 右足を一歩踏み込む。刀が振り降ろされる。
 「はっ!」
 一歩で間合いを詰め、右手で柄を払う。
 払った勢いを利用してがら空きになったボディを狙う。
 左のボディブロー。
 小野は右手を刀から離し、肘を引いて防ぐ。
 防がれても距離を詰める。至近距離なら左手の刀を使えない。
 くっついている以上、あまり強いのは入れられない。だが、先手を取って攻められている。左手に刀がある以上この距離なら有利だ。
 左、右のワンツー。浅い。更に右でリヴァーを狙う。
 小野が刀を捨てた。左で防がれる。
 左で顔を狙う。
 小野は首をねじり避ける。
 バックステップ。一度距離をとる。これが自分の距離だ。
 小野は不動。構えたまま動かない。だが、力みがなく隙もない。
 さて、どうするか。小野がどうするか。
 お互い動かない。この場の時が止まったかのようだ。他のやつらも全く動かない。朱宮さんも不安そうにこちらを見つめたままだ。
 小野が急に構えを解いた。
 「もう止めや。おまえら帰るでぇ」
 男たちは素早く小野の後ろに集まった。
 「時間がかかりすぎや。人目に付く前にとっとと帰るで。あんたらも早ういきや」
 「見逃しくれるのか?」
 「誰にも喋らんでくれたらそれでええ。どうせ警察に知られたところでパクられたりはせんけどな」
 「そうか。それは助かるな」
 朱宮さんに言う。
 「それじゃあ帰りましょうか。無事に帰してくれるみたいですし」
 「そ、そうですね。ちょっと話が読めないですけど」
 「ああーあなた、これ」
 強盗の女がおもむろにかばんを差し出した。
 「あんたのでしょ?そもそもわたしがあんたのまちがえなきゃよかったんだけどね、ま、しょうがない♪」
 やはり軽いやつだ。
 朱宮さんが受け取り中身を確認する。なにも取っちゃいないわよ、と強盗の女がちゃちゃを入れる。
 「あ、ありがとうございます」
 「まあお礼を言われることでもないけどね♪」
 彼女のかばんだ。わざわざ返すのも親切な話だ。
 「よかったですね、無事戻ってきて」
 「はい」
 ヤクザ風の男たち四人から逃れ、彼女をつれて走った。もう五分ほど走ったろうか。後ろから追ってくるものは見えない。この一本道を抜ければ大通りで人が大勢いる。人目につくところで荒事をするわけにはいかない。警察を呼ばれてはどうしようもないからだ。銀行強盗という犯罪を犯しながら警察を恐れないわけがない。
 「もう少しで大通りに出ます。それまでは辛抱して走ってください」
 「は、はい」
 彼女はだいぶ息があがっているようだ。精神的にも身体的にも限界に近いのかもしれない。
 彼女の顔を見つめながらそう考えた。
 「あ!ああ・・・前」
 彼女が声をあげたので、前を向いた。
 前には二人のほうをじっと睨んでいるものがいた。一人女がいるが、あとは全員カラスのように真っ黒なスーツを着ている。そして、その一人は日本刀を鞘に納めたまま杖のように持っている。
 日本刀を持った男が言った。
 「わしは小野っていうもんや。ちょいとお姉さんのバッグにあるもん出してもらおうか」
 「な、なんなんですか」
 「あなたたち、私に見覚えある?」
 横に居た女が話に割り込んだ。あの時と同じ格好、同じかばん。彼女だってわからないはずはなかった。
 「あなたは・・・・・・あの時の!」
 「そう、強盗よ♪」
 こいつノリが軽いな。だが、あまり思いつめる性格で強盗なんて出来ないのかもしれない。
 そんなことを考えていると、左の家から人が出てきた。細身の中年男性である。彼はこの状況に驚いているようだ。
 「ん、あんたらなにやってるんだ!」
 傍から見ていれば剣呑な事態である。もちろん事実安穏な状態ではないが。
 「なんじゃぁわれは」
 小野が微動だにせず聞いた。
 「か、刀!?・・・・・・け、警察に・・・」
 「そうはさせれへんなぁ」
 そう小野が言うと、五メートルほどの間を二歩で詰める。その間に素早く日本刀を抜くと、家に戻り始めていた男を追い抜き目の前に立った。
 「な・・・・・・!?」
 「死んでもらうでぇ」
 と言うと刀を袈裟切りに振り下ろした。
 速い。
 男が倒れる。
 地面が真っ赤に染まった。男は倒れたまま動かない。あたりに鉄の臭いが漂う。
 朱宮さんの前に立ち、見えないようにした。いくらなんでも普通に見ればショッキングな事態だ。
 「あまり、見ないほうがいい」
 「あ・・・は、はい」
 彼女も少なからずショックを受けてるようだった。
 そんな二人のほうを向くと、小野が言った。
 「さてと、まずかばん返してもらうでぇ」
 後ろを向いて言う。
 「どうしようもありません。ここはおとなしくかばんを返しましょう」
 すると彼女は頷いておれにかばんを渡した。
 「これでいいか?」
 そう言ってかばんを投げ捨てた。小野はかばんを拾ってなかを確かめるなり言った。
 「ど~もぅ、確かにこれでええわ。わいらにはとばっちりくわして悪かったなぁ」
 「・・・・・・」
 「あっちでは往生せえや」
 そう、小野は抜き身の刀を上段に構えて言った。
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